キャンプ・サリカ・バイ・アマンギリ(アメリカ、ユタ州)


辺境のラグジュアリー

「最果ての地を旅したい」「大自然の絶景を独り占めしたい」

―それならここで紹介する6つの隠れ家的リゾートがお薦めだ。

そのほとんどが“最寄りの”都市から数百キロは離れており、辺ぴであればあるほど特別感が際立つ。

JACKIE CARADONIO

その存在を知る人は少なく、実際にたどり着けた人となればさらに少数で、周囲何キロにもわたって人影はなく、空気は澄み切り、誰にも気付かれないまま放置されたような場所 ――そんなワイルドな辺境地に今、知る人ぞ知るラグジュアリーなテント式宿泊施設が誕生している。これまで何十年もの間、“ラグジュアリーキャンプ”といえば、その定義はアフリカのサファリキャンプのことだった。しかしキャンペーンチェア(旅行用の折り畳み椅子)と革のトランクを備えたサファリスタイルは、今ではアフリカからアジア、アメリカ南西部へと伝播し、美しい辺境地で新感覚のエスケープを提供している。特筆すべきは、辺境地であるがゆえに、観光客が押し寄せて荒らされることもなく、限られた人だけが訪れるまさに隠れ家的リゾートとなっていることだ。

キャンプ・サリカ・バイ・アマンギリ
アメリカ(ユタ州キャニオンポイント)


ラグジュアリーホテルチェーンのアマンが運営するユタ州南部のリゾート、アマンギリを知っている人なら、そこでも十分に人里離れた別世界だと言うだろう。けれども、アマンはその魅力さらに一歩進め、隣接する広さ約250ヘクタールの荒野にテント施設、キャンプ・サリカを新しくオープンした。高地砂漠にそびえるいくつもの卓上の丘と錆色の砂地を背景に、帆布の屋根が揺れる建物が自然と溶け込んでいる。

なにしろアマンが手掛けただけに、「テント・パビリオン」と呼ばれるこれらの建物は、一般的なキャンプ施設とは桁違いの豪華さだ。各棟にプライベートプールがあり、室内には洗練されたサファリテイストのオーダーメイド家具が備えられている。

「サリカ」とは、サンスクリット語で「開けた空間」という意味だ。まさにその名の通り、周囲には一面の砂漠がどこまでも広がる。パビリオンからほぼどの方向を目指しても、壮大な国立公園やモニュメントにたどり着く。敷地を囲むように、グランドキャニオン国立公園、コロラド川、モニュメントバレー、グランドステアケース=エスカランテ国定公園、ブライスキャニオン国立公園、ザイオン国立公園が近接する。とはいえ、冒険を楽しむのに、必ずしも長い距離を移動する必要はない。少し歩けばゲスト専用の整備された登山ルートがあり、絶景の峡谷に分け入る探検ツアーも用意されている。

一方、外に出なくてもそれなりの楽しみ方がある。お薦めは、自然に囲まれた屋外で行われるヨガや瞑想のクラス。そして新鮮な野菜や地元産の肉を使った、野性味のある味わいの食事だ。あまりの静けさに人恋しくなってきたら、歩いて30分(車なら5分)のアマンギリに出掛け、スパで施術を受けたり、リゾート内のレストランやラウンジで会話を楽しんだりして気分転換しよう。 aman.com

カチ・ロッジ

ボリビア(ウユニ塩原)


ボリビアのウユニ塩原は、この世のものとは思えない白い塩の大平原と、見渡す限り続くゴツゴツした岩山により、火星になぞらえられてきた。この地域に初めてオープンした高級キャンプ施設は、一番近い空港から約105キロ離れた標高約3600メートルの地にあり、6棟のドーム型テントが並ぶ。その光景はまさに宇宙の彼方、別世界だ。

ジオデシックドーム(三角形の部材を組み合わせた半球形)型のロッジは、見た目は月面基地を思わせるが、内装はファッショナブルで機能的。スイスのインテリアデザイナー、マリーナ・カーディスとマリーネ・ルーギンビュールが、サボテンなど天然材製の家具、手織り布、そして“ボリビアのアンディ・ウォーホル”と呼ばれる現代美術家ガストン・ウガルデの色彩豊かな絵画作品を配し、温かみのある快適な空間を作り出した。ドーム上部の透明な窓からは、毎晩ベッドに寝転びながら星空の天体ショーを眺められる。

ドームから一歩外に出ると目の前に世界最大の塩原がどこまでも広がり、冒険心をくすぐられる。火山の噴火口の縁までハイキングし、 2000年前のミイラが保存されているアルカヤなどの遺跡を訪ね、塩原をマウンテンバイクで走り回ろう。ここではまるで火星に招かれた唯一の客人のように、これら全てを満喫できる。kachilodge.com


KIATTUA

グリーンランド(ヌークフィヨルド)


Kiattuaは長らく王族や富裕層、そして外界から隔絶されたバケーション先を求めるセレブリティーを魅了してきた。“外界から隔絶された”場所を求めるなら、確かに世界で最も人口密度の低い地域の、氷で覆われたフィヨルド(氷河による侵食でできた複雑な地形の湾)ほど格好の場所はないだろう。バイキングの入植遺跡群の中に立つこの北極圏のリゾートは、“最寄り”の都市が約80キロ先という隔絶ぶり。ゴムボートかヘリコプターでしかアクセスできないため、ごく少数の人だけが訪れるまさに特別なバケーション先となっている。テントは切り立った崖と滝の間に集まっており、いずれも暖房を完備。内装はスタイリッシュで、毛皮がかけられたラグジュアリーなベッド、ムートンラグ、北欧のミニマルな調度品でコーディネートされている。

しかしKiattuaでの滞在を特別なものにするのは、やはり北極圏の僻地ならではの圧巻の大自然だ。宿泊客は、ゴムボートに乗って氷河が浮かぶ海を飛ばしてクジラを見に行ったり、水泳やカヤックを楽しんだりすることができる。キノコを採取し、海で北極イワナを釣ったら、リゾートのミシュラン星付きシェフに調理してもらおう。北欧屈指のレストランから定期的に訪れるシェフ陣は、ツンドラで自ら収穫したハーブやその他の新鮮な食材を使い、予算に縛られることなく、インスピレーションのままに調理する。夕方になったら露天風呂に浸かり、氷河のかけら入りジントニックで乾杯しよう。arctic-nomad.com


ナヤラ・テンティッド・キャンプ
コスタリカ(ラ・フォルトゥナ)


 ナヤラ・リゾーツのオーナー、Leo Ghitisは数年前、長年の森林伐採で生息地を追われた固有種のナマケモノを森に戻すため、1000本を超えるセクロピアの植樹プロジェクトを開始した。するとこの大らかな毛だらけの動物はすぐにその責務を果たし、1年以内に10頭以上が森へ戻って来た。そして今、Ghitisはこの森に、自然を愛する新しいタイプのゲストを呼び込もうとしている。

ナヤラ・リゾート系列のナヤラ・テンティッド・キャンプにあるのは、サファリ風デザインのテント式コテージ21棟。室内の壁には熱帯植物が描かれ、天蓋付きベッド、特大サイズのバスタブ、コテージの外にはダブルヘッドのレインシャワー、さらには近隣の温泉水で満たしたプライベートプールを完備している。

  深い森の中に広がる同リゾートでは、溶岩原を歩く火山トレッキング、ミスティコ・アレナル吊り橋公園でのハイキング、山頂で浸かる天然温泉など、僻地ならではのさまざまな体験ができる。散策の際は “ナマケモノ専門コンシェルジュ”と常駐の博物学者チームが案内。うっそうとした森の中にある、まるで木の上に浮かんでいるようなコテージでの滞在なら、プライバシーの確保も万全だ(ただし、ナマケモノからは覗かれるかもしれない)。nayaratentedcamp.com


マスタング・モニュメント
アメリカ(ネバダ州ウェルズ)


ネバダ州北部の高地砂漠。スギ、ネズの木々とヤマヨモギが茂る大地に、琵琶湖3.5個分以上もの広さを誇るエコリゾートがある。慈善家マドレーヌ・ピケンズが、野生の小型馬「マスタング」の保護、そして古き良きアメリカを体験してみたい人のために造り上げた楽園だ。リゾートのコンセプトは“西部開拓時代の再解釈”。カウボーイやインディアン、野生馬がいた風景がこの地に蘇っている。

マスタング・モニュメントは2014年、マスタングの非営利保護区としてオープンした。マスタングは今から100年以上前、開拓者やカリフォルニア・ゴールドラッシュで一働きした金採掘者たちを、かつて“一攫千金の地”として知られたこの地に運んできた馬だ。保護区のオープンは、長年にわたり野生馬の保護を訴えてきたピケンズの悲願であり、今日では数万頭が区内に生息している。

リゾートセクションは5年の休止期間を経て、昨年夏にリニューアルオープン。新しく設置されたラグジュアリーなテント10棟の表にはコヨーテが描かれ、内部にはパッチワークキルトの枕が積まれた快適なベッド、革製の大型アームチェア、壁には手織りのタペストリーが配されている。一息つきたいなら、マッサージやフェイシャルなどの施術が受けられるスパ、そしてサルーン(バー)のテントへ行ってみよう。サルーンのバーカウンターには、座面が馬具の鞍の形をしたスツールが並んでいる。  

ゲストはピケンズが保護した700頭以上の馬から相棒を選び、この地域を好きなだけ自由に散策できる(同じ鞍でもバーの鞍に乗る方が好みならそれもOK)。毎日のように馬で出掛け、保護区を越え、小川を渡り、広大な平原を横断し、さらには19世紀に栄えた鉱山労働者の町スプルースモントを抜けて行こう。乗馬以外では、馬車、ルビー山脈やゴシュートバレーへのオフロード車ツアー、ハイキング、岩壁を懸垂下降で下りるアブセリング、アーチェリーなどが楽しめる。mustangmonument.com


ザ・ベージュ

カンボジア(シェムリアップ)


カンボジアのアンコールワットは12世紀にクメール王朝が創建した寺院で、ヴィシュヌ神が祀られている。この人気観光スポットは日の出から日没まで多くの観光客で混み合っており、もはやいにしえの神秘は感じられない。しかしここから北へわずか13キロほどの、約10ヘクタールにわたって広がる隠れ家的リゾートでは、辺境地ならではの自然美と古代遺跡がまとう神秘性を今なお堪能できる。

ザ・ベージュはアンコールトム地区の端にあたる、エメラルド色の森の中に位置する。アンコールトムはアンコール遺跡の一つで、13世紀初頭にクメール王のジャヤーヴァルマン7世によって建立された寺院群だ。カンボジアの定番観光スポットからは距離のある立地だが、基盤となる歴史と神秘性は変わらず、むしろ静かな癒やしを求める旅人には最適なリゾートと言える。 「ザ・ベージュ」というホテル名は、テント式コテージに張られたベージュ色の帆布に因む。コテージ11棟はいずれも悠々と流れる川の畔にあり、天蓋付きの四柱式ベッド、アンティーク家具、バスタブ、大型テラスを完備。このテラスには屋外レインシャワーとスイング式デイベッドを備えており、目の前をさえぎるもののない、完全なプライバシーを保ちながら景色を眺められる。

リゾート内で提供される料理は、古代カンボジアに起源を持つ本格クメール料理だ。食材は全てオーガニックで、リゾート内の農場で栽培したワイルドハニー他、地元の食材をふんだんに使用している。ここに宿泊したら、併設のインフィニティープールはぜひ利用しておきたい。高い木々の上に浮かぶように設置されたプールの眼前には、果てしない樹冠の海が広がっている。 the-beige.com