バリ島の新しい波
パンデミックが起こる前のバリ島は、体験型ツアーやご当地アクティビティー、良質のサービスを競い合う超高級リゾートホテルがそろう人気観光地としてにぎわっていた。ところがビザや自主隔離が求められるようになると、この小さな島への観光客は激減。楽園への扉は完全に閉ざされたかのように見えた。しかし実は現在でも、ソシアルビザ(Social Visa)の申請は可能だ。観光客が再び押し寄せる前、そして入国条件が変わる前に、混雑知らずの空間とプライバシーを確保しながら、バリ島を満喫しよう。

毎年、さまざまな旅行先が話題になっては消えていく中、バリ島は長年にわたり不動の人気を誇るリゾート地だ。加えて思うように渡航できなかった昨年以降、バリ島への渇望はさらに高まっている。南太平洋に浮かぶ南国の楽園・バリ島には美しいビーチが数多くあるが、とりわけ地球の裏側からわざわざ訪れる欧米からの観光客は、この島に太陽とビーチ以上の期待をかけて来る。そんな期待に応えるロックダウン後の旅先として、実際、バリ島ほど理想的な場所はない。没入型ヨガ、サイクリング、料理教室がテーマの旅など、体験型旅行のトレンドが続々と発信されているこの島の、体験別お薦め宿泊施設を紹介しよう。

夢のような料理クラス

1万7000以上 もの島からなるインドネシアは国民の大多数がイスラム教徒だが、バリは唯一、ヒンドゥー教徒が中心の島である。国内でも突出して数多くの寺院があるため、文化や建築に興味のある旅行者は行く先を決めるのに頭を悩ませるほどだ。島民はヒンドゥー教の教えに従い、牛肉を食さない(豚肉はOK。子豚の丸焼きは島の名物料理)。加えてオランダ植民地時代の影響も色濃く残るため、バリ料理はインドネシアや他のアジア料理とは明らかに異なる。主な食材は、麺、米、トロピカルフルーツ、肉、魚、各種スパイスなど。

アナンタラ・スミニャック・バリ・リゾート(anantara.com)には、同ホテルブランドのトレードマークともいえる料理学校Spice Spoonsが併設されている。ここで開かれる料理クラスは堅苦しい勉強会ではなく、‟おいしいデモンストレーション“といった雰囲気だ。また、アナンタラに訪れる機会があれば、バリ島屈指のサンセットスポットであり料理も素晴らしい屋上レストランはぜひ訪れておきたい。ちなみにバリ島ではほとんどの高級リゾートホテルがフランス料理やイタリア料理をメインダイニングで提供しているが、同ホテルではこだわりを持ってバリ料理とインドネシア料理をメインとしている。フォーシーズンズ・リゾート・バリ・アット・サヤン(fourseasons.com)には、川の畔に立つ独立した建物内に料理学校Sokasiがある。広大なシェフ用菜園の中にある竹ぶき屋根の屋外デモンストレーション用キッチンなど、その贅沢な施設は他の料理学校が羨むほど。クラスで使用する食材の中でもとりわけバリ料理の鍵となる生姜やコブミカン、ターメリック、コリアンダーは、全てクラス用に収穫され新鮮なまま教室に届けられる。基本のバリ料理、祭事用の料理などのクラスがあり、いずれもバリ島出身の副料理長Wayan Sutariawanが指導。クラスは朝の市場見学から始まり、約2時間の実習を経て、最後に自作のおいしいランチをいただいて終了する。

ハイキング、サイクリング、ラフティング

バリ島では主食の米が豊かに栽培されており、何百年もの歴史を持つ精巧な灌漑システムを備えた見事な棚田がユネスコの世界遺産にも登録されている。そんな同地での定番アクティビティーといえば、棚田や熱帯雨林の森、山里を巡るハイキングとサイクリングのツアーだ。火山地形のバリ島では、タフながら素晴らしい景色が待ち受ける山登りや、緩やかな坂道でのくつろいだサイクリングが楽しめる。

マンダパ・リッツカールトン・リザーブ(Mandapareserve.com)はリッツカールトン系列でも世界で5つしかない、上位ブランド「リザーブ」を冠したホテルだ(世界で3番目に誕生したロケーション)。そんな同ホテルでは、一流ガイドによる引率と“舞台裏へのアクセス”を売りにした厳選ツアーの提供に力を入れている。いずれも知る人ぞ知るスポットに参加者を引率する多彩かつこだわりの内容で、例えばその代表的な半日または一日の「フォルクスワーゲン・ヴィンテージ・ツアー(Volkswagen Vintage Tour)」では、丁寧に修復されたフォルクスワーゲン「タイプ181」(コンバーチブル、籐製ピクニックバスケットに入ったランチ付き)」で観光名所を巡る他、特別な入場許可が必要な寺院など厳選スポットを訪ねる「隠れた宝石(Hidden Gem)」のコースも選択できる。なお、最も短い90分のマウンテンバイクツアーでも、マニアックな路地裏やガイドの友人が住む伝統家屋など、こだわりの訪問先がルートに含まれている。バリ島にある高級ホテルの建物の多くが伝統家屋をモチーフとしているだけに、地元の人々が実際に住む邸宅を見られるというのは貴重な体験だ。

同ホテルはこの他、ラグジュアリーホテルとしては少々意外にも思えるが、一般の旅行者にはほぼ知られていない辺境地を行く、タフな長距離トレッキング(4~6時間)やサイクリングの各種ツアーも提供している。また、2015年にオープンして以来(南海岸のリゾート地・ヌサドゥアの海沿いに立つリッツカールトンは、2014年にオープン)、目玉となっているのは、キリマンジャロ山のミニ版のようなバトゥール山から日の出を見る登山ツアーだ。参加者は午前3時にホテルを出発し、バリ島で2番目に高いこの火山を2時間かけて登った後、山頂から見事な日の出を眺める。実は日の出登山はバリ島の定番アクティビティーで、路上でもツアー会社の客引きが観光客をさかんに呼び込んでいる。しかしそれらのツアーで雇われるガイドは身元も経歴も定かでない上、案内されるのも混雑した登山道だ。一方、同ホテルのツアーには専門の資格を持つ優秀な山岳ガイドが付く上、参加者はホテルの専用車と専用駐車場を利用し、混雑していないルートから山を登る。さらに、山頂ではガイドが運んでくれた朝食というお楽しみも待っている。

バリ島で最も長い川の畔に位置するフォーシーズンズ・リゾート・バリ・アット・サヤンでは、前述した料理クラスの他に、代表的なアクティビティーとしてプライベートラフティングツアーを提供している。日帰りのラフティングツアーは他のホテルでも提供しているが、フォーシーズンズの2時間ツアーは専任ガイド付きの自社ボートでより良い地点から出発し、到着地点もリゾート内というのが魅力だ(通常は到着後、深い谷底から坂を登って帰らなければならない)。2019年からは年間を通じて、スパトリートメントやヨガを組み込んだ3泊のウエルネスパッケージも提供。スパやヨガスタジオが地元の文化として根付いているバリ島において、これはごく自然な展開と言えるだろう。

瞑想の時間

2017年にオープンした星のやバリ(hoshinoya.com)はバリ島屈指のラグジュアリーかつ神秘的な趣のリゾートホテルで、水を取り入れた意匠が際立つ。星のリゾートは大正3年、軽井沢で温泉旅館として創業。星のやバリでは、個性的なデザインのヴィラ30棟(1~2階建て)がプライベートプールを擁して並んでいる。ウブド郊外の奥深い山中にあるこのリゾートは、まるで水に満ちた伝統集落のようだ。レストランと大型スパが各1つずつという星のやでは、日常からのエスケープにフォーカスした静寂の休暇を楽しみたい。

COMOウマ・チャングーも星のやバリと同様、水を生かしたデザインが特徴だが、ここでは特にスパ、ウエルネス、ヨガに力を入れている。ホテルを象徴するウエルネスサロン、コモ・シャンバラ で提供されるヘルシー料理や常設クラス(自重エクササイズ”TRX”など)、そして各2つのピラティススタジオ(ピラティス用マシンを完備)とヨガスタジオ(1つでは空中ヨガクラスを開催)、眼前に海が広がるプールサイドのスイング式デイベッドやビーチベッドがゲストを敷地内から離れ難くさせる。

ウルワツ地区の最南端にあり、有名寺院に程近いシックス・センシズ・ウルワツ・バリ(sixsenses.com)は、すぐ目の前が海辺の断崖絶壁というドラマチックなロケーション。バリスタイルのリゾートとクラシックなビーチホテルを融合させたこのホテルには、シックスセンシズの「つながりを取り戻す」という理念を感じさせるくつろいだ雰囲気が漂っている。オープンエアの空間とプライベートプールを備えた各ヴィラは、ゆったりとした広さ。ウォータースポーツが手軽に楽しめるのもうれしいポイントだが、ここでの必須項目はウエルネススクリーニング(健康診断、カウンセリング他)とオーダーメイドで作成されるウエルネスプログラムだ。

サファリな体験

3年前、バリ島にインドネシア初となるテント式リゾートが誕生した。1800年頃、東南アジアでヨーロッパの探検家(主にオランダ人)が使用していた野営キャンプの初期モデルをモチーフにしているというが、そこには決してプライベートプールやワイン専用冷蔵庫、空中ヨガ施設、マウンテンバイクのコースはなかっただろう。

カペラ・ウブド・バリ(capellaubud.com)は、シンギダやザラファのようなアフリカの高級サファリロッジのモデルを、バリ島の主要観光エリアであるウブド近郊の霧深い熱帯雨林の森に取り入れている。テント屋根のロッジ全22棟(1ベッドルーム)で提供されるのは、至れり尽くせりのコンシェルジュサービス「カペラ・パーソナル・アシスタント」だ。各ロッジは食事やくつろぎの場となる大型屋外デッキ、屋内外シャワー、プライベートプールを完備。ゆったりとした室内には、金づちで成形した銅製の特大バスタブや、アンティーク家具を再利用したミニバーなどが配されている。

インドネシアの鉄鋼王であるオーナーが、自身の膨大なアジア美術コレクションを展示するために発案したこのリゾートには、各ロッジ内と全ての共有スペースに美術品のオリジナルが飾られている。また、毎日提供されるランドリーサービスは、アフリカのサファリでは定番だがバリ島のリゾートとしては珍しい。テント屋根のロッジはそれぞれ異なるデザインで、そのほとんどが複数層の屋外デッキ、ロープの吊り橋、空中に突き出すように設置されたプールを備えている――“テント屋根”と聞けば簡易な印象を持つが、これはイギリスのまるで普通の集合住宅に見える首相官邸と同様のロジックで、内部は驚くほど贅沢な仕様となっている(とはいえリゾート内にはテント屋根ではない、2ベッドルームの家族向けロッジもある)。 —Larry Olmsted