“アドベンチャーロッジ”ブーム到来
今、南米を旅するなら、お薦めの宿泊施設は断然、ハイエンドなアドベンチャーロッジだ。この種のロッジでは多彩なアウトドアツアーが楽しめる上、スパや食事も充実している。

世界には、その土地を思い浮かべた時に、そこならではの宿泊施設が頭に浮かぶ場所がある。例えば南太平洋なら水上バンガロー、アフリカなら最高級のサファリキャンプ――日本文化を堪能したい人なら、欧米にはない深い浴槽のある老舗旅館でのひとときを夢見るものだ。そんな中、南米を訪れる人々の間では、高級アドベンチャーロッジを宿泊先に選ぶ人が増えている。近年、急成長中のこの種の宿泊施設では、現地の文化や自然を学び、多様な生き物と触れ合う機会が豊富に用意されているだけでなく、南米トップクラスの食事も楽しめる。アドベンチャーロッジは概して大型の施設ではないが、パタゴニア、アタカマ砂漠、イースター島、イグアスの滝、ガラパゴス島などを堪能したい人にとってはベストな選択肢だ。

アドベンチャーロッジブームの火付け役となったのは、1993年にオープンしたエクスプローラ・パタゴニア。ユネスコの世界生物圏保護区に指定されている、チリの雄大なトーレス・デル・パイネ国立公園の中にできた園内唯一の宿泊施設だ。49客室のこのロッジでは、オールインクルーシブ制で最高級の食事を味わえると同時に、世界屈指の秘境といわれるパタゴニアの大自然でエキスパートガイド付きの冒険を楽しめる。しかも、その全てが環境に配慮した形で実現されているのだ。

自慢の故郷を多くの人に見てほしいと考えていたオーナー一家とパートナー経営陣の使命は、チリの自然、文化、食、ワインを世界に紹介することだった。このポリシーが功を奏し、同ロッジは多くの賞賛を集め、系列ホテルを南米中に展開していく。また、その成功に触発され、同様のこだわりを持つ家族経営ホテルグループが現れ、現在、主要3社がブームの先頭を走る。さらに、その足跡を追う非チェーン系宿泊施設も続々とオープンしている。

3つのホテルグループ――エクスプローラ(explora.com)、ティエラ・ホテルズ(tierrahotels.com)、アワシ(awasi.com)の施設は、いずれもメディアが発信する‟お薦めホテル“記事の常連で、旅行業界やメディア関係の賞も数多く受賞している。素朴な自然派ロッジは南米各地に昔からあったが、この3社の新しさは、環境に配慮した運営と、ハイスタンダードな旅行者層のニーズに応える食事・宿泊・サービス提供との絶妙なバランスにある。どのロッジも自然環境を守りながら快適な設備を整えており、例えば現地産の建材を使ったプライベートプールなどはその一例だ。室内装飾には地元産の工芸品やアンティークを取り入れ、レストランでは郷土料理を提供する他、ピスコやカシャーサなど南米産の蒸留酒、チリ産やアルゼンチン産の最上級のワインをそろえている。とはいえ最大の特徴は、贅を尽くしたオールインクルーシブ制の宿泊プランだろう。また、最高級のサファリロッジと同じように、上級トレーニングを受けた常勤ガイドが引率する一日または半日の自然満喫ツアー、一日の冒険ツアー、地元の文化にどっぷり浸かる体験ツアーなど、魅力的なアクティビティーも豊富に用意されている。

3社のアプローチは非常によく似ているが、基本的な違いもある。エクスプローラのロッジは比較的規模が大きく、多くは客室数が約50室。乗馬に力を入れており、パタゴニア産の馬を飼育し、乗馬レッスンも外部に委託するのではなく自社で行っている。マッサージと各種トリートメントのサービスは3社ともあるが、中でも24~40室と幅広い客室数を持つティエラ・ホテルズの3ロケーションは本格的なスパを併設する。最も高級感があるのはアワシで、客室はヴィラ風のスイートルームが12~14室のみ。ここでは団体ツアーを手配する代わりに、各客室に専任のプライベートガイドが付き、4WD車で宿泊客を引率する。食事も3社の中で最高級だ。

ティエラ・ホテルズの一番新しいロッジはチリの秘境・チロエ諸島内の島にあり、陸と海のさまざまなアクティビティーを提供している。一方、エクスプローラは、ペルーの世界遺産マチュピチュのゲートウェイとなるウルバンバ渓谷にオープンしたホテルが人気だ。また同社の、モアイ像で知られる神秘的なイースター島にあるホテルも、島内で抜きん出て素晴らしい。

さらにエクスプローラは2021年、パタゴニアのアルゼンチン側にあるロス・ウエムレス自然保護区内に5軒目のロッジをオープンする予定だ。この他、系列ロッジを拠点に数日かけて注目スポットを巡るグランピングツアー「旅路(Travesias)」の一部として、アルゼンチンのサルタとボリビアのウユニで小規模なキャンプ施設も運営している。いずれも申し分のないサービスを提供してくれる3社の施設を組み合わせて、南米の観光スポットを次々と巡る壮大な旅程を組むのもいいだろう。

チリ

パタゴニアのチリ側には、前述した3社全ての高級アドベンチャーロッジがある。さらに、地球上で最も乾燥した地域として知られるアタカマ砂漠でも、この3社が覇を競っている。アタカマ砂漠はパタゴニアほど広く知られてはいないが、見所はむしろ多いくらいの魅力的な観光スポットだ。

パタゴニアはトレッキングと乗馬の聖地として知られているが、他にもカヤック、クルーズ、釣り、サイクリング、ガウチョ文化体験など多彩なアクティビティーが楽しめる。一方、アタカマ砂漠は変化に富んだ絶景が何よりの魅力で、その荒涼とした美しさはしばしば「別世界」と形容される。実際、アメリカ航空宇宙局(NASA)がアタカマ砂漠を火星探査車「ローバー」の試験場に選んだのも、その地勢が地球上で最も火星に近いからだった。

岩がちな起伏の多い地形で、過去に一度も降水を記録したことがない気象観測所もあるアタカマ砂漠だが、地下の帯水層のおかげで緑のオアシスが点在し、ミネラル豊富な温泉に浸かることもできる。ある日はマウンテンバイクで標高の低い渓谷の狭い道を縫って走り、その翌日は広大な塩原でフラミンゴに囲まれながらトレッキングを楽しみ、またある日は標高5500メートル超の火山に登る――他にも乗馬、間欠泉を巡るハイキング、古代に描かれた岩絵の見学など、アクティビティーの幅広さそのものが、主要3社がここにロッジをオープンした理由を物語る。用意されているツアーは、エクスプローラだけでも40種類以上。さらに、日が暮れても冒険の時間は終わらない。標高の高さと澄み切った空気、光害のない環境、そして大気中の水分の低さから世界最高の天体観測スポットと言われているアタカマ砂漠には、世界最大の望遠鏡が設置されている他、各国を代表する研究機関の拠点も多く置かれている。3社のロッジはいずれも、天文専門家が解説する星空観測ツアーを研究用レベルのドーム型天文台で開催している。

アフリカのサファリロッジ運営会社として広く知られるアンドビヨンド(andbeyond.com)は先頃、パタゴニアのすぐ北、まだそれほど知られていないチリの湖水地区にアンドビヨンド・ヴィラ・ヴィラをオープンした。客室はスイートルームとヴィラ計18室・棟の他、5ベッドルームの貸別荘が1棟。敷地内にオーガニック菜園と本格的なスパがあり、ヨガクラスを毎日開催している。ここは南米にある他の多くのロッジと異なり、夏冬両方のアクティビティーを用意しているのが特徴。その幅広いラインアップには、ハイキング、乗馬、釣り、ラフティング、カヤック、マウンテンバイク、スキー、スノーボード、スノーシューなどがある。宿泊料金には含まれないが、スノーモービル、犬ぞり、ヘリスキーの手配も可能だ。南米以外からこの地域に参入してきた有名企業はアンドビヨンドが初だが、高級アドベンチャーロッジのコンセプトがこれだけ成功し、成長を続けていることを考えれば、今後も後に続く企業が出てくることだろう。

アルゼンチン&ブラジル

アワシ・イグアスは、“世界の自然七不思議”の一つといわれる世界最大の滝、イグアスの滝のアルゼンチン側にある唯一のオールインクルーシブ制アドベンチャーロッジだ。滝の観光コースや展望ポイントは絶えず観光客で混雑するが、ロッジの宿泊客は一般入場時間前の早朝に滝のアルゼンチン側に入るVIPツアーに参加できる。

ホテル・ダスカタラタス・ベルモンド・ホテル・イグアスフォールズはオールインクルーシブ制のアドベンチャーロッジではないが、ブラジル側の滝のすぐそばにある高級ホテルで、イグアス国立公園内にある唯一の宿泊施設だ。こちらの宿泊客も国立公園の一般入場時間の前後に、混雑を避けて滝の景観を楽しむことができる。夜の部では満月の下で国立公園を散策するエキスパートガイド付きツアーも開催。他に並ぶもののない立地、スパ、豪華なプール、複数のバーやレストラン、手厚いもてなし、宿泊客向けの優遇サービスを理由に、このホテルとアルゼンチン側のアワシの両方に滞在してイグアスの滝をフルに満喫しようという旅行客も多い。

エクアドル

高い評価を得ているマシュピ・ロッジ(mashpilodge.com))は、首都キトの元市長で起業家、そして環境活動家でもあるRoque Sevillaの発案で誕生した宿泊施設だ。熱帯雨林と雲霧林にまたがる約2500ヘクタールの保護区内にある同ロッジの宿泊客は、宿泊料金に含まれる各種ガイド付きツアーで、その唯一無二の自然環境と豊かな生物多様性に触れることができる。ハイキング、滝の見物、空中からジャングルを見下ろす迫力のスカイバイクや展望タワーなど、そのラインアップは実に多彩。客室数はスイートルームを含めて全24室。素晴らしい食事の他、約100キロ離れた首都キトからの送迎サービスも料金に含まれる。

エクアドルで最も人気の観光スポット、ガラパゴス諸島にはピカイア・ロッジ(pikaialodge.com)がある。場所はゾウガメの保護区内。死火山のクレーターの縁に建てられた、14客室のみのホテルだ。専属ガイドには、10年以上の経験者のみを採用。また、ガラパゴス諸島のホテルで専用クルーザーを所有しているのはここだけで、全長105フィートの豪華船による遊覧ツアーを毎日催行している。ツアー付き宿泊パッケージには、一日または半日の海と陸でのガイド付き各種ツアーと全ての食事(ワイン付き)、空港送迎が含まれる。

ボリビア

標高約5200メートルの火山の麓に広がる有名なウユニ塩原。そこにハイテクを駆使したドーム型テント6棟が並ぶカチ・ロッジ(kachilodge.com)は、まるでSF映画のセットをそのまま持ってきたような趣だ。スイス人デザイナーが設計したこのドーム型テントは広さ約30平方メートルで、室内に特注ファブリックと地元で製作された家具、オリジナルのアート作品を配したスイートルーム仕様。宿泊客に向けて、火山登山や古代ミイラの見学、キノア農園ツアーなど、ガイド付き専用車で出掛ける各種アクティビティーを提供している。毎日、日の出と日没の時間帯に行われるハイキングツアーでは、ツアーの終わりに塩原に沈む夕日を眺めながらカクテルを楽しむ。夜のお楽しみは、何といっても星空観賞だ。飲食施設は首都スクレにあるレストランProyecto Nativaによる運営で、地元産の最高級オーガニック食材を使った料理を堪能できる。—Larry Olmsted