魂を癒やす旅
タイで「おもてなし」といえば「献身」とほぼ同義語であり、提供されるサービスは芸術に近い域にまで高められている。その筆頭に挙げられるのが、かつて貴族や王族だけが受けられた伝統療法だ。何千年もの間、その秘技を受け継いできたヒーラーやセラピストは今、離島の楽園や文化の中心地にある最高級のリゾートスパで旅人を癒やしている。タイ伝統の温湿布マッサージを受けること、そして魂を癒やすことを目的にこの国を訪れてみよう。

カマラヤ・コ・サムイ(サムイ島)

仏像の視線に見守られながらレセプションに足を踏み入れ、ジャングルの中をうねうねと延びる密やかな小道の一つを抜けると、カマラヤ・コ・サムイの75の客室が現れる。小道はその後、海に面した丘の中腹を上り下りしながら、複数のプールやトリートメントルームへと続く。このリゾートホテルを訪れる人の目的は、バケーションよりも、むしろ‟癒やし“だという。

創業者のジョン・スチュワートと、中医学の医師である妻カリーナは2005年、古代の僧侶が瞑想をしていた洞窟がある土地にこのリゾートホテルをオープンした。「聖なる土地に立つウエルネス専門のリゾート」との評判は、やがて腕の良いヒーラーやセラピストを引き付けることになる。おかげで、このリゾートのセラピーメニューは並み外れた充実ぶりだ。 推奨プログラム17種の中でのお薦めは、タイ式マッサージのセラピストが筋肉のこわばりを見つけ、徹底的にほぐしていく「柔軟性の回復(Structural Revival)」だ。また、アーユルヴェーダ、タイ伝統のハーブ療法、道教、チベット哲学、中医学などを組み合わせた70種類以上のメニューから、希望の施術を選んで受けることもできる。

一般的な西洋式のスパとは異なり、ここでの治療は食事に始まり食事に終わる。 併設レストラン2軒のメニューには贅沢な料理も並んでいるが、デトックスメニューも用意されており、「変化の受容(Embracing Change)」または「理想の体重(Ideal Weight)」プログラムに申し込まなくても、栄養の知識が得られ、体重も数キロは落として帰れる。今年はさらに昨今のパンデミックという状況を踏まえ、医食同源の考え方を取り入れた新プログラム「免疫と回復力(Immunity & Resilience)」の提供も開始。もっともゲストは例年と同様、歯ブラシ1本持たずに訪れ、「どこが不調かは自分でも分からない」と告げるだけでOK。健康上の問題点はプロが見つけてくれるので、全てお任せで過ごせばいい。215ドル〜。 kamalaya.com

チバソム・インターナショナル・ヘルスリゾート(ホアヒン)

この健康志向のホテル(全54客室)が位置するのは、バンコクから車で3時間ほどの湾岸の町、かつてタイ王室の夏の保養地だったホアヒンだ。今から26年前、世界のウエルネスリゾートの先駆けとしてオープンしたチバソム・インターナショナル・ヘルスリゾートは、西洋医学と東洋の伝統療法を融合させたプログラムの提供で知られる。

到着するとゲストはまず、現在の健康状態や体調についてカウンセリングを受ける。そしてその結果に合わせて、「スパ」「フィットネス」「理学療法」「ホリスティックヘルス」「栄養」「審美」という6要素のプログラムから、必要なものを選択する。もしくは、豊富なメニューから希望の施術を組み合わせて受けることも可能だ。ここではプールで遊ぶ人の姿はほぼ見られない。というのも滞在が3日間であれ1カ月間であれ、ほとんどのゲストが自身の健康問題と真剣に取り組むために訪れているからだ。その上で、片頭痛に悩む人は頭蓋仙骨療法、高血圧を改善したい人は緊張を解くプログラム、がんの寛解後で体が弱っている人は細胞を活性化させるプログラムといった、それぞれの症状に合わせたセッションを受ける。また、皮膚科医によるピーリング、レーザー、切らないフェイスリフトの他、より踏み込んだ施術を希望する場合は、個別のコースを組む、あるいは皮膚科医に相談することができる。その他の代表的なメニューは、チャクラのバランス調整、食物不耐性テスト、慢性障害に対する拡散型衝撃波治療など。体力の回復が目的なら、最新の機材と設備を使った総合的なスポーツ医学プログラムも用意されている。まさにこのホテルはウエルネスの総本山、心身をトータルリセットする場なのだ。680ドル〜、オールインクルーシブ制。 chivasom.com

フォーシーズンズリゾート・チェンマイ(チェンマイ)

タイ北部では、調和の取れた生活が何よりの良薬だと考えられている。そんな北部に位置するフォーシーズンズリゾート・チェンマイは昨年、「体」「心」「社会」「栄養」という4つの側面から健康作りにアプローチする、ランナー王朝様式のスパWara Cheewaをオープンさせた。そのプログラムでは、「毎夕1杯のゴールデンミルク(牛乳にターメリックなどのスパイスを混ぜたドリンク)」といった食生活のアドバイスから、ウエルネスの専門家による包括的な指導まで、さまざまな内容を提供している。また、地元の工芸品や織物の工房訪問、メーリム渓谷でのサイクリング、タイボクシングのムエタイクラス、併設レストランRim Tai Kitchenのシェフと行く市場での買い物と健康料理教室といった、視野を広げることを目的としたアクティビティーも充実している。

滞在中はヒンズー教の象頭神・ガネーシャ卿の祭壇前を散策、または水牛がのんびりと歩く広大な水田を眺めながら、世界を新たな目で見つめてみよう。なお、このホテルでは全99室・戸の宿泊施設のうち、23戸がプライベートレジデンス(住宅)となっている。レストランのお薦めは、新しくオープンしたグリル料理のNorth by Four Seasonsだ。ここでは食材の6割を地元タイ北部の農場から仕入れており、それらを金色のオープングリルに載せ、この地方伝統の調理法で焼き上げる。優雅なウエルネス体験に浸りたい人は、プライベートジェットでサムイ島へ。この島の姉妹ホテル、フォーシーズンズリゾート・コ・サムイでも、ビーチでのカスタムマッサージや一流講師によるヨガの個人レッスン、客室のプライベートプールでのカクテル、キャンドルを灯したバスタイム、客室のベッドで受ける夜のマッサージなど、贅沢なメニューが待ち受けている。600ドル〜。 fourseasons.com

プーレイベイ・ア・リッツ・カールトン・リザーブ(クラビ)

クラビNo1の高級リゾートホテルで、2人がかりのフォーハンドマッサージや、「輝くキャビア(Luminescent Caviar)」「真珠フェイシャル(Pearl Facial)」などのトリートメントに身を委ねよう。トリートメントルーム11室を備える併設スパでは、穏やかな内海のラグーンを眺めながらタイ伝統のボディー&フェイシャルトリートメントが受けられる。最近オープンしたゾウの保護施設アオナン・エレファント・サンクチュアリへ足を延ばし、餌やりやゾウとの泥風呂を楽しむのもお勧め。自然保護区のホン島はボートですぐの場所にあり、石灰岩の崖に囲まれた透き通ったラグーンで魚と泳ぐという、ピピ島さながらの体験ができる。

この壮麗なリゾートホテルには54室の客室があるが、中でも最もラグジュアリーなのは、屋外バスルームとプライベートプールを備えた専属バトラー付きのヴィラ「Royal Beach 」6棟だ。オリンピックサイズ(長さ50メートル)のメインプールからは、海面から石灰岩がいくつも突き出た、カルスト地形特有の神秘的なアンダマン海の景色が見晴らせる。日が落ちると、中庭に立つパビリオン「Sala Srichan」が、闇に揺らめく何列もの光に囲まれた幻想的な楼閣に変貌する。ゲストはここでパーティーを開いてもよし、「2000本のキャンドルディナー」を楽しんでもよし。3つのロマンチックなレストランのうち一つで食事をしたら、受賞歴のあるタイ人シェフAongが指南する、本格的なタイ南部料理のクラスに参加してみよう。ディナーの前にはバーChomtawanを訪れ、湾の向こうで刻一刻と色を変える、水彩画のような夕日に時を忘れて見入りたい。450ドル〜。 ritzcarlton.com

ミスカワン・ビーチフロント・ヴィラズ(サムイ島)

バンコク、香港、ウィーン、そしてドイツのルートヴィヒスブルクで外来診療を行っているミスカワン・ヘルス・グループは、慢性疾患を薬に頼らずに治療する機能性医学のクリニックとして知られる。その系列施設であるこのリゾートでは、慢性疾患の療養に訪れた患者とその家族が、ヤシの木が並ぶメナムビーチ沿いのプライベートヴィラに滞在する。リゾートホテルとしてもあらゆる面で申し分のない、専任スタッフ付きヴィラ9棟は4〜40人のグループで宿泊可。施設内の統合医療クリニックでは、活力増進のための点滴治療や、診断解析、予防的治療を専門に行っている。また、食事は各人の健康目標に沿ってホリスティックなメニューが組まれ、患者は自然療法で免疫系の強化と安定を図りながら、薬の使用を減らしていく。個別の治療プログラムを組む場合は、不調の根本原因を突き止めることからスタート。その後、アンチエイジング療法、免疫療法、ホルモン療法、デトックス療法、オゾン療法、がんの回復療法を組み合わせたオーダーメイドの治療を行う。ヴィラが1000ドル〜。 miskawaan.com —Serena French