Namibian desert

砂丘で楽しむサファリ

高級サファリロッジのオープンが続くナミビアでは、ロッジでの贅沢な時間と希少な野生生物、そして異世界さながらの砂漠の風景が旅人を魅了している。

by Larry Olmsted
Zebras

Wildebeests

Elephants

規格外の国、ナミビア

アフリカでサファリ観光を初めて体験するとなったら、大抵の人はアフリカ東部(ケニア、またはタンザニア)か南アフリカを訪れる。そして、ある問いで 頭をいっぱいにしながら帰途につく――「次はどこへ行こうか?」。その問いに、ここで答えを示そう。今、最もホットな行き先はナミビアだ。「ゾウやキリンはアフリカのどこのサファリロッジでも見られますが、“砂漠に適応したゾウやキリン”はナミビアでしか見ることができません」。そう語るのは、高級サファリロッジOnduli Ridgeのオーナーであり、サファリ専門ツアー会社Ultimate Safarisのシニアガイドを長年務めるオーランド・ハラセブだ。「ナミビアは独立してまだ32年ですが、環境保護を憲法に明記したアフリカで最初にして唯一の国です。開発には非常に細かい規則があり、砂漠の大部分は保護されています。主要な自然資産は、地中の鉱物から木々のこずえの先まで全て政府が所有しています。もちろん、全てのクロサイも。保護区は国土の4割以上を占め、地球上でナミビア以外では見られない動物、昆虫が多数生息し、 ナミビア固有の植物が生えています。このように他に類を見ない自然を持つ国だからこそ、ここでできる観光も他に類を見ないものなのです」。

ハラセブの言う通りである――ナミビアは“最大”“最古”“最も高い”“最も乾燥している”など、あらゆる説明に“最”が付く規格外の国だ。人口密度はモンゴルに次ぎ世界で2番目に低く、アメリカのテキサス州より広い土地にニューヨーク市ブルックリン区の人口(約 250万人)より少ない人々が暮らしている。そんなナミビアでは驚異的なスケールの野生動物ウォッチングが楽しめるのはもちろん、アフリカの他の地域では見ることのできない風景や生態系も目にすることができる。 ナミビアを初めて訪れた人々は一様に「別の惑星に来たようだ」と言う。一日の終わりに現れる夜空は息をのむほど美しく、地上から、ヘリコプターから、サファリカーから、さらには今立っているどの場所から眺めても特別な感慨を呼び起こす。 富裕層向けのサファリツアー会社、Micato Safarisのサファリディレクターで、女優のナタリー・ポートマンや政治家のヒラリー・クリントンなどセレブの指名も受けるアラン・ピーターセンは、ヨハネスブルクを拠点に30年以上にわたりアフリカ南部全域のサファリをガ イドしてきた。「初めてサファリを体験した方はやはり見応えのある野生動物を期待されますが、その他の“アフリカならではのもの”も強く望まれます。南アフリカにはワインの名産地がありますし、ザンビアとジンバブエは世界三大瀑布の一つ、ビクトリア・フォールズが有名です。ボツワナは大湿原オカバンゴ・デルタで昔から人気があります。ここに近年加わったのがナミビアです。観光インフラが大きく向上し、野生動物ウォッチング以外のアクティビティーを豊富に提供するロッジ、Onduli RidgeやSossusvlei Desert Lodgeなどがオープンし、ナミビアはにわかに注目を集めています。うちのツアー参加者にも新しいロッジを希望される方が増えましたが、そうした方々にしても、求めるのは昔からある“ナミビア ならではのもの”、すなわち砂漠、野生生物、砂丘、美しい風景なのです」。

Oryx antelope


Onguma Safari Camps

Little Ongava

砂漠の気候に適応した野生生物

アフリカで6番目に大きい国立公園、ナ ミビアのエトーシャ国立公園は、“サファリ観光を楽しむのに最適な条件を備えた私営の野生動物保護区”に囲まれてい る。「国立公園に入れる」「私有地である (道路規制などが緩い)」「ラグジュアリーな宿泊施設がある」というのがその条件だが、そうしたエトーシャ周辺の私営保護 区でまず名前が挙がるのは、Onguma Safari Campsonguma. com)だ。約3万3400ヘクタールの広大な保護区内に、テント式のロッジ、草葺き屋根のロッジ、 ムーア様式の城を模したメイン棟とヴィラ12棟からなるOnguma The Fortなどの宿泊施設が点在している。同じく私営保護区のOngava Game Reserveongava.com)は面積およそ3万ヘクタールで、豪華なヴィラ3棟の宿泊施設Little Ongavaがある。これらの私営保護区とエトーシャ国立公園には、ライオン、ヒョウ、チー ターなどのネコ科の大型動物からサイ、キ リン、ゾウ、シマウマ、あらゆるレイヨウ類(ウシ科の草食動物)まで、アフリカのサファリで人気の野生動物が生息している。 ところで野生動物といえば、サハラ以南のアフリカで最も乾燥した地域であるナミビアでは、一部の動物が暑く乾いた気候に応じた進化を遂げていることが大きな特徴だ。他の地域では日行性の動物が、 ナミビアでは暑さを避けて日没後に活動するようになっており、夜のサファリドライブではとりわけ素晴らしい光景が見られる。

ナミビアの国のシンボルであるオリックス(写真:右ページ)は、脳に流れ込む血を冷やす機能を備えたことで、体温が37.8℃を超えても生き延びられる。ライオンは他の地域に比べて痩身だが、ナミビアの冷え込む夜に合わせて毛が厚くなっており、さらに獲物から必要な水分を得るため水を飲まなくても生きていけるという特殊な能力を備えた。ホアニブ川周辺のキリンも砂漠の気候に適応し、食べる葉から必要な水分を得ている。ナミビアに5年間滞在した研究者は、アフリカの他の地域では水飲み場の常連であるキリンがここでは水を飲むのを見たことがない、と話す。また、ホアニブ川周辺のキリンは毛の色が薄いのも特徴で、樹木が少ない土地でのカモフラージュのために進化したと考えられている。砂漠の気候に適応したナミビアのゾウは四肢と胴が長く、砂地を歩きやすいように足の幅が広くなっている。ゾウは眠る時も横たわらないとよく言われるが、これはゾウが完全に安全だと感じる時にのみする行動のため、人間がその姿を見る機会がめったにないだけだ。しかしナミビアにあるような開けた乾燥地帯では四方を見晴らせることから、このようにくつろいだ状態のゾウを目にする機会が増える(アフリカの他地域を訪れるサファリ客の大半は、この姿を見ることがない)。また、ナミビアのクロサイは他地域のものよりも大柄で角が長く、足も大きい。

Sossusvlei

別世界の風景

野生生物も見応えがあるが、ナミビア観光の一番の魅力といえばやはり、ここでしか見られない風景だろう。その代表格であるナミブ砂漠は、およそ5500万年前から存在する世界最古の砂漠だ。ナミブ=ナウクルフト国立公園内にあり、アフリカ大陸で事実上、最大の野生動物保護区となっている。しかし野生動物保護区とはいえ、ここでの見所は壮大な風景だ。世界屈指の高さを誇る砂丘や、緩やかに連なる赤い砂丘の景観は世界的にも知られている。中でも、ソススフレイ(ナミビア語で“時が忘れた地”という意味)と名付けられた一帯は、多くの人にとってナミビア旅行の忘れられないハイライトとなるだろう。そこには、山のごとくそびえる砂丘群を背景に荒涼とした白い塩類平原が広がり、その中にぽつりぽつりと、樹齢900年の、不気味によじれた真っ黒な木が立つ。木々は枯れているが、カラカラに乾燥しているために朽ちず、約900年もの間、同じ姿を保っている。写真家にとってはパラダイスの、どのアングルで撮っても絵になるソススフレイは、文明消滅後の風景と映画『ロード・オブ・ザ・リング』のセットを掛け合わせたような場所だ。ここでの最大のお楽しみは、砂丘を歩いて登るという唯一無二の体験であり、これを目当てに多くの人がソススフレイを訪れる。数ある砂丘の中でも巨大な「デューン45」は、ソススフレイで最も多く写真に撮られる砂丘である。砂地は歩きにくく、直射日光の強烈さが見かけ以上に登る人の体力を消耗させるものだが、その点、ここは比較的挑戦しやすい砂丘に入る。最難関はソススフレイの最高峰、“ナミブのエベレスト”と呼ばれる高さ300メートル超の砂丘「ビッグ・ダディー」だ。とはいえ大変ではあるものの十分に登頂可能で、そこそこ体力のある人なら1時間かからずに登り切れる。頂上から見晴らす砂丘の眺めは、隣のやや低い「ビッグ・ママ」を含めまさしく絶景で、さらに反対側の斜面を下ると、木々がまばらに立つ塩原の圧倒されるような風景の中を歩けるというご褒美も待っている。

Skeleton Coast

海辺の難破船

南北480キロに及ぶスケルトンコーストの険しい海岸線は、ポルトガルの船乗りに“地獄の門”と呼ばれている。何しろここは、強風、強い潮流、岩だらけの沿岸と悪条件が重なる極め付きの海の難所である。そのためこの海岸には、大小数百隻もの難破船が打ち上がったまま放置されている。砂に沈んだ船や沈みつつある船、古くは1530年に座礁した船の他、全長約95メートルの「エドゥアルド・ボーレン」号や約155メートルの「ダニーデン・スター」号のような、上空からすぐ分かるほどの巨体ゆえに観光ポイントとなっている船もあり、その上空では遊覧飛行が人気を博している。もっとも、海岸に点在する難破船を間近でじっくり見るには、飛行機よりも四輪駆動車でのツアーがお薦めだ。またスケルトンコーストには、数百頭の群れをなすアザラシの巨大コロニーがいくつかあり、アザラシを狙うライオンや暑さしのぎに海を泳ぐゾウなど、海岸に集まって来る他の野生動物と共に、観光客の熱視線を浴びている。

Twyfelfontein petroglyphs, Damaraland

ペトログリフ(岩面彫刻)

スケルトンコーストと内陸部を隔てる高い山々に囲まれた砂漠地帯、ダマラランド。砂漠の気候に適応した野生動物がとりわけ多く生息するこの地域には、ナミビアに2つしかないユネスコ世界遺産の1つ、トゥウェイフルフォンテーンがあり、古くは約6000年前に刻まれたペトログリフが多数見付かっている。岩面に残されたこれらの彫刻・線画が表しているのは、狩猟採集民のサン族が旅に出て戻って来るまでの様子だ。道中に見たと思われる水飲み場や動物が描かれており、彼らがかなり遠くの海岸まで行っていたことがうかがえる。現地は巨岩が積み重なった岩場で、200カ所以上の巨岩や岩盤に2500点を超える彫刻と線画が残っている。この種のペトログリフ群としてはアフリカ最大であり、ガイド付きツアーで2時間ほどかけて見て回る価値は十分にある。この他、併せて訪れておきたい近隣スポットは、玄武岩の柱がそそり立つ奇勝、オルガン・パイプ峡だ。ここは、約1億5000万年前に溶岩が冷え固まって縮んだ後、浸食により柱状の岩だけが残った場所で、巨大なオルガンのパイプのように見えることからその名が付けられた。

ダマラランドのお薦め高級サファリロッジ:
Onduli Ridge (ultimatesafaris.na)
Hoanib Valley Camp (theluxurysafaricompany.com)
Damaraland Camp (wilderness-safaris.com)
Mowani Mountain Camp (chiwani.com
Desert Rhino Camp (wilderness-safaris.com)

andBeyond’s Sossusvlei Desert Lodge

ナミビアへの行き方

首都ウィントフークにナミビ 唯一の国際空港があり、ほとんどの旅行者は南アフリカのケープタウンかヨハネスブルク経由で到着する。このため、ナミビア旅行に南アフリカでのサファリウォッチングやゴルフ、ワイナリー巡りを組み合わせるプランも考えられる。 だがアメリカからの場合、最も便利なのはカタール航空でドーハを経由する行き方だ。アメリカの主要空港からノンストップでドーハへ飛ぶと、そこからウィントフー クまでのフライトがある。なお、カタール航空の機内には「Qスイート」という個室スタイルのビジネスクラス席があり、毎年のように「ワールド・ベスト・ビジネスクラス」賞を獲得している。 ウィントフークは見所があまりない。フライトのタイミングが合えば早々にブッシュフライト(僻地へ移動するための小型飛行機)に乗り換えて、ロッジへ向かうのがベストだろう。 ウィントフークで1泊するなら 市内のホテル、The Weinberggondwana-collection.com)か、空港から約30分の私営保護区内にある豪華なサファリロッジ、Zannier Hotels Omaandazannierhotels.com)がお薦め。

Private plunge pool suite at andBeyond’s Sossusvlei Desert Lodge

宿泊施設

ナミビアでのお薦めロッジは、前出のOnguma The FortLittle Ongavaで、滞在中はサファリ観光、そしてエトーシャ国立公園の雄大な自然を満喫できる。Sossusvlei Desert Lodgeandbeyond.com)は、砂丘やナミブ=ナウクルフト国立公園の観光拠点に最適。砂漠の気候に適応した野生生物に興味がある人は、Onduli RidgeDamaraland CampMowani Mountain CampDesert Rhino Camp、または地元コミュニティとキリン保護財団が共同で 運営しているHoanib Valley Campのいずれかに滞在するといいだろう。 Sossusvlei Desert Lodgeは、アフリカ各地に加え、今や南米にも展開する高級サファリロッジ運営会社andBeyondを代表するフラッグシップロッジだ。モダンなヴィラ10棟はエアコンとプライベートプールを備え、「ビッグ・ダディー」をはじめとする砂丘へのアクセスも良好。敷地内のペトログリフ見学、電動マウンテンバイクでのサイクリング、ハイキング、ガイド付き四輪バギーツアー、専用ポートから離発着するヘリでの遊覧飛行、高精度の望遠鏡を使ったガイド付きの天体観望会など、アクティビティーの充実度もこのロッジの魅力だ。また、ヴィラ全室に開閉式の天 窓があり、ベッドに寝そべったまま満天の星空を眺めるという最高の贅沢も味わえる。

Micato Safaris

旅の頼れるプランナー

ナミビアの宿泊インフラは近年、 かなり改善されたが、富裕層向けのラグジュアリーロッジはまだまだ足りていない。一つ気を付け たいのが、最近スケルトンコーストを中心に増えている、見た目が 華やかでデザイン性も高いロッジだ。これらはナミビアに今までなかったタイプのロッジとして旅行誌などで盛んに取り上げられたものの、実際は建物が立派なだけで、まともなサービスはおろかサファリツアーも提供しておらず、 海外からの旅行客を失望させて いるのが実態だ。一方、最高級のロッジも小型チャーター機でしかたどり着けないなど、個人での手配が難しい状態となっている。その対応策としてお勧めなのは、信頼できる旅行代理店や富裕層向けのサファリツアー会社に手配を任せることだ。ニューヨークとケニア、そして南アフリカに専用オフィスを構えるMicato Safaris(mi cato. com)は、55年以上続く富裕層向けサファリツアーの専門会社で、この分野で最も多くの賞を受賞している。ナミビア観光の草分けでもあり、現地での強力なコネクションと、経験豊富なガイドによるツアーを強みとしている。