Mustique Island

セレブになぜ人気?カリブのマスティク島

By Deborah Frank
Mustique Island beach picnic

Mustique Island Airport

Mustique Island golf carts

Mustique Island security

Mustique Island beach

イギリス王室メンバーや世界的歌手など、ビッグネームのセレブがこぞって別荘を購入するマスティク島。その人気の理由を探ってみよう。



イギリス国王、チャールズ3世の戴冠式が執り行われた今年は、イギリスに因んださまざまなものに注目が集まっている。女王エリザベス2世の治世を描いたNetfli xのドラマシリーズ『ザ・クラウン』の最終シーズンが今秋配信されることも、その一つだ。シーズン3と4では、マーガレット王女が世間の目を逃れ、別荘のあるマスティク島で休暇を過ごす。マスティク島は、カリブ海の島国セントビンセント・グレナディーンにある面積約6km²の小さな島である。ただしドラマの撮影は、居住者や滞在客のプライバシーを重視するマスティク島では行われず、スペイン領のカナリア諸島で行われた。実際、マスティク島に上陸するには、事前の厳しい入島審査がある。

マスティク島の警備・航空責任者、ポール・ハーリーは、元沿岸警備隊員や元警察官を中心としたスタッフ29人を束ね、マスティク島と周辺海域を隅々まで警備している。「皆、警察や警備畑の出です」と胸を張るハーリー自身、イギリスの南ウェールズ警察で33年間、殺人と組織犯罪の担当課長を務めた経歴を持つ。「(島への)着任と同時に、警備担当部署を改革しました。この島のニーズに合わせ、テロから重大な組織犯罪まで、今、世界で起きていることに対処できるようにしたのです。島を訪れるのは富裕層ですから、小さな島の警備隊でも大きな事件に対応できなければなりません。


マスティク島の厳しい警備の歴史は、まさにマーガレット王女の時代までさかのぼる。マーガレット王女は1960年代初頭、スコットランドの貴族コリン・テナントから結婚祝いに島の土地、およそ4ha(ヘクタール)を贈られ、初めてこの地に降り立った。テナントは世に名の知れた友人たちが人目を気にせずにくつろげるバカンスの楽園を造ろうと、1958年に島を購入していた。演劇舞台デザイナーとして知られるオリバー・メッセルが設計した王女の邸宅は「レ・ジョリー・ゾー(美しき水)」と呼ばれ、現在、執事とシェフ、家政婦2人が付いて1週間2万5000~5万ドルで借りることができる(6ベッドルーム)。


その後、王女の後を追うように、数々の有名人――デヴィッド・ボウイ、ミック・ジャガー、ブライアン・アダムス、トミー・ヒルフィガーなど――が島に別荘を構えてきた。「パームビーチ」と名付けられたヒルフィガーの別荘は、アメリカ、フロリダ州のパームビーチにある豪邸と同様、注目を浴びる存在である。また、ミック・ジャガーは、この島に別荘を2つ所有している。「彼らは島の発展に大きく貢献してくださった方々です」と、前述の警備・航空責任者、ハーリーは言う。イギリスのウィリアム皇太子とキャサリン妃も、定期的に休暇に訪れる。この島の厳重な警備を思えば、パパラッチに付きまとわれ精神的に追い詰められていたヘンリー王子とメーガン妃がこの地に身を隠さなかったのは、不思議な話だ。


「警備の観点で重要なのは、プライバシー、規則、安全性です」とハーリーは続ける。「プライバシーを求める人は、エリート意識を振りかざしているわけではありません。彼らをパパラッチなどの脅威からどうやって守るか。私たちは、この島を訪れる人々の目的が、美しい島の平和と静けさを楽しむためであることをはっきりさせたいのです。王室メンバーや著名人の写真を撮るためなら、上陸できません」。忘れてはならないのは、マスティク島は株主が所有するプライベートアイランド(私有島)であり、その株主に代わって島を管理・開発するため50年以上前に設立されたマスティク・カンパニーが運営している点だと、ハーリーは強調する。



Cotton House Residences

Cotton House Cottages

島で唯一の宿、コットン・ハウス

島の社交場でもあり、本館はホテルというよりもクラブハウスのような役割を担っている。


島にはくつろいだ雰囲気が漂い、上流社会の排他的な感じはない。数日滞在すれば皆、互いに何年も前から知っている隣人のように接するようになる。4日ほど過ごせば分かることだが、ここでは誰も相手の職業を聞こうとしない。この島で休暇を過ごすのだから、それなりに懐に余裕はあるのだろうと思う程度だ。繁忙期には1週間のレンタル費用が6万ドルを超える別荘もあるのだから、その想定は妥当だ。


ハーリーは言う。「私たちは誰が、どこから来るか把握する必要があります。そのため、事前に(到着便の)乗客の情報を入手し、来訪理由と宿泊先を確認します。友人の滞在先に泊まるか、そうでなければ、別荘やコットン・ハウスの一室を予約してもらう必要があります」。島で唯一の宿、コットン・ハウス(1泊730ドル~、上写真)の建物は、上品な美しさを漂わせた南国らしい趣だ。島の社交場でもあり、本館はホテルというよりもクラブハウスのような役割を担っている。客室タイプは、プライベートプール付きのスイートルームとコテージの2種類。丘の上のスイートルームには寝室が2室あり、別荘に滞在している気分が味わえる。


2021年2月、ハーリーが率いる警備隊は最新鋭の警備艇を導入した。「サンゴ礁を守るため、島の沖合910m付近までの海域を禁漁区に指定しています。ですから島の環境を乱す人もパトロールの対象です」。禁漁区を設けたことによって、近年、かつてないほど多くのカメが島に集まるようになったとハーリーは言う。「私たちは陸・海・空から島をパトロールしています。安全が確認されているからこそ、人々はこの島に戻って来るのです。車の鍵を付けっぱなしにしていても、車内にiPhoneを置き忘れても、盗まれることはありません」。mustique-island.com