ユカタン半島の果てで憩う
この半島にある、ウエルネスに特化した3つのリゾートを訪ねてみよう。秘境のイメージが強いユカタン半島だが、キンタナロー州当局によると、2023年までにトゥルムに国際空港の開港と、数十億ドルを投じた観光鉄道「トレン・マヤ」の開通を目指しているという。これが実現すると、リビエラマヤのビーチリゾートエリアから植民地時代の都市や内陸にあるマヤ遺跡への移動が容易になる。訪れるなら、旅行者が押し寄せる前の今が狙い目だ。

カーサ・チャブレ

世界の果てを目指す旅には、それにふさわしい序章が必要だ。マヤ時代の古都トゥルムに程近い、シアン・カアン生物圏保護区のはずれに立つこのホテルへの移動は、そのまさに理想的な序章といえるだろう。何しろ「パンガ」と呼ばれる6人乗りの船外機付きボートに乗り込み、ホテルまで35分かけて、遠浅の礁湖や、マングローブが両岸に茂る水路を渡って行くのだから。そのとき世界は、空と、水と、マスカラを細長く引いたような陸の筋だけになる。

マヤ語でシアン・カアンは「天空の生まれた所」を意味する。熱帯海洋生物が複雑な生態系を織りなすこの保護区は、面積約52万ヘクタール、海岸線は約120キロに及び、300種の鳥類、大小のネコ科の動物(ジャガー、ピューマ、オセロットなど)、6種のウミガメ、さらにマナティー、ワニ(礁湖は遊泳禁止)などが生息している。

ホテルは、本館の5客室と海に面した5棟のバンガローからなり、全室にエアコンと屋外シャワーを完備。いずれも「シンプルと洗練の融合」をコンセプトとしたデザインとなっている。併設レストランは1軒だけで、地物の魚やホテルのオーガニック菜園で収穫した食材を使った、ユカタン地方ならでの料理を出している。また、小さいながらも充実したスパでは、ヨガの多彩なプログラム(初心者向けヨガ、パワーヨガ、陰ヨガ、リストラティブヨガ、ヨガニードラ)を宿泊客に無料で提供。ソトイワシ釣りにバードウオッチング、装備をレンタルできるカヤックやスタンドアップパドルボードなどで、アウトドアを満喫するのもいい。

もっともこのホテルの何よりの魅力は、俗世間から逃れられること、そして何もしない贅沢を楽しめることだろう。 ホテルが差し出す大いなる誘惑――つまりは快適なインターネット環境――を退けられれば、の話だが。ただし客室の大型テレビでストリーミング配信の映画を見られるのも、そのネット環境のおかげではある(携帯電話が圏外になるのは、また別の問題)。もちろんリモートワークの場としても最適で、中にはここからリモートで会社を経営しているビジネスリーダーもいる。むしろ企業買収の検討といったストレスフルな業務にあたるのに、これほどもってこいの環境はないかもしれない。リゾートホテル開発会社ハマック・ホテルズの共同経営者で同ホテルの運営に携わるNicolas Dominguezは言う。 「ゲストの皆さんは、ここならメールも電話も追って来ないと喜ばれます。とはいえ20分もするとフロントに来て、Wi-Fiのパスワードを教えてほしいとおっしゃるのですが」。 chablehotels.com —Gary Walther

チャブレ・ユカタン

ユカタン州の首都メリダから車で約30分。17世紀にサイザルアサのプランテーションだった場所が、往時の歴史と荘園の面影を偲ばせる美しいリゾートに生まれ変わった。密林の樹冠の下に広がるチャブレ・ユカタンは、40客室のリゾートホテル。メキシコ人デザイナーのPaulina Moranが、青パイプを施した黄色い肘掛け椅子や、梁を渡した見事な天井からぶら下がる鳥の巣形のハンギングチェアなど、遊び心を散りばめた内装に仕上げている。また、建物前のきっちりと刈り込まれた芝生も美しい。

ウエルネスリゾートを謳っているだけあり、併設スパのクオリティーは非常に高い。コンクリート製の建物は抽象芸術を思わせる造形で、屋外プールや植物と共にくつろぎのオアシスを生み出している。スパのプールに使われている濃い翡翠色のタイルは、アマゾンの森で採取した珪化木(石化した木)だ。宿泊客には無料のカウンセリングが提供されるため、まずは気軽に予約してみよう。

レストランは四方をガラスで囲まれた優雅なデザインで、世界最大級のテキーラコレクションがガラスの棚に飾られている。コンサルティングシェフを務めるJorge Vallejoは、メキシコを代表するシェフの一人。魚介は近くの港町プログレソから仕入れたものを、また、チョリソ(豚肉の腸詰め)は、ホテルから車で2時間半ほどの、ピラミッドで有名なチチェン・イッツァ遺跡そばの町で作られたものを使っている(チチェン・イッツァ遺跡への日帰りツアーはホテルで手配可能)。

緑に囲まれた客室はガラス張りの壁や切り出した天然石が印象的な空間で、いずれもプライベートプール、屋外ラウンジエリア、iPadで操作できる音響システムを備える(より緑深い場所にある客室は、30〜38号室)。内装は白とダークブラウンで統一され、床は人造大理石。シャワーは屋内外にあり、床から天井まで取られた大きな窓には、深いひだの入った透け感のある白亜麻布のカーテンがかかっている。 chablehotels.com —G.W.

チャブレ・マロマ

前述のチャブレ・ユカタンと同系列のこの70客室のリゾートホテルは、美食家の舌を大いに刺激してくれる。併設レストランBu’ulで味わいたいのは、先住民の伝統食をモダンにアレンジした創作料理だ(営業はディナーのみ)。例えば“メキシコのキャビア”の異名を持つ、つるりとしたエスカモーレ(蟻のサナギ)を使った料理はどうだろう? 雨期にリュウゼツランの根元から巣を掘り出して採集したサナギを、ここではそのプチプチした食感を引き立てるために、スモーキーで甘いメキシコの果物マメイのタルタルに混ぜ、絶妙な青臭さを持つケールの茎を添えて仕上げている。その未知なる味の融合がひとたび喉を滑り落ちれば、この先10年はパーティーでの話題に困らないだろう。この他の珍味でお薦めは、騙されたと思って注文してほしい、バッタ入りのソースを絡めた魚の直火焼きだ。これにも食指が動かなければ、プールサイドのカジュアルなレストランで、タコスなどおなじみのメキシコ料理をいただこう。

この隠れ家的リゾートの魅力を一層高めているのは、素晴らしいビーチと、長さ約27メートルのラップレーンを備えたL字形のプール、そしてBu’ulの屋上にあるシーフードバーだ。このバーは、カンクンへ向かってゆったりと進むクルーズ船を眺めながら(ありきたりなクルーズに参加しているのではなく、この極上の場所から船を眺めていることに感謝したい)、サンセットを待つのに最高の場所だ。

チャブレ・ユカタンと同じく、チャブレ・マロマもバスルームの豪華さが際立っている。屋内外のシャワーと2つの洗面ボウル付き洗面台を備えたその空間は、丸2日間、同室のパートナーと顔を合わせずに済みそうなほど広い。ヴィラは5タイプあり、建物の2階部分を占める「King Villa」と「Double Villa」はプライベートプール付き、1階には「Serenity Villa」と「Stand Along Villa」があり、2階建ての「Presidential Villa」は大きなリビングルームとバルコニー、プライベートプール、2つのレインシャワーを備えた広々とした空間で、窓の外に息をのむような美しい景色が広がる。 chablehotels.com/maroma —G.W.