カリフォルニアの静ひつ
“ウエルネス”の概念はトレンドからライフスタイルそのものへと進化し、今やスパ産業は製薬業の3倍の規模を誇る、世界的な一大産業に成長した。そんな中、誰もが同じようなトリートメントを受けていた時代は終わり、この分野もパーソナル化の時代を迎えている。一人ひとりに合わせてカスタマイズされるプログラムは、体だけでなく心の癒やしにも着目。デトックスメニューも、もはや単なる禁欲的なセッションではない。「長寿」「バイオハッキング」「代替医療」などをキーワードにした1週間のカスタムウエルネス体験は、人生を変える可能性をも秘めている。

ランチョ・ラ・プエルタ

「牧場の扉」を意味するこの施設名は、1940年に創業者夫妻が最初のウエルネスキャンプを立ち上げたキャンプ場の門(2本の樫の木が弓状に配されていた)に因んでいる。メキシコのバハカリフォルニア州テカテにあるこの場所は現在、ウエルネスリゾートのランチョ・ラ・プエルタとなり、聖なるクチュマー山に守られながら、スズカゲの木に囲まれ、チャパラルの低木と花崗岩が広がる谷に抱かれている(※アメリカとメキシコの国境沿いにあるこのウエルネスリゾートまでは、アメリカのカリフォルニア州サンディエゴから出ている無料送迎バスで行くことができる)。菜園と山々、牧草地が点在する約1600ヘクタールのこの私有地は今も、ランチョ・ラ・プエルタの使命を物語る存在だ。

「シンプルに暮らし、体に本来備わっている能力を生かし、自然の中での生活を受け入れる」とは、共同創業者Edmond Szekelyと妻Deborahの言葉だ(現在98歳になるDeborahは、次に紹介する施設ゴールデン・ドアを後に創設した)。先頃新しく開始した21日間のプログラム「完璧なバランスの休暇(Perfect Balance Sabbatical)」には、夫妻のモットー“siempre mejor”(スペイン語で「常により良く」の意味)が凝縮されている。「集中」「充電」「強化」という3つのポイントに焦点を当てて取り組むこのプログラムでは、参加者は朝、山へハイキングに出掛け「強化」に取り組んだ後、「充電」のための足つぼマッサージを受ける。この他、いずれも野外で行うトランポリンやフラフープを使ったエクササイズ、音浴セラピー、ププーサ(お好み焼きに似た中米の名物料理)を作る料理教室、といったメニューが組まれている。

家族経営のランチョ・ラ・プエルタは今年で創業81年を迎えるが、施設内は“シニア”な雰囲気ではなく、むしろ“ティーンエイジャー”――好奇心にあふれ、ちょっとした反抗心も感じられるフレッシュな空間だ。客室87室はそれぞれ異なる内装で、メキシコの民芸品が飾られている。分譲住宅地となるウエルネスビレッジ内には地中海風の風景の中に戸建て108軒が並び、こちらは内装のカスタマイズが可能だ。

夕暮れ時に敷地内を散歩すると、高地砂漠のひんやりとしたそよ風にセージやヨモギがかすかに香る。創業者の故Edmond Szekelyは17カ国語を自在に操った。そんな彼の“知識を共有したい”という強い思いにあやかって、夜のイベントスケジュールにはさまざまなワークショップやコンサート、講演が日替わりで用意されている。1人4000ドル~。rancholapuerta.com —Alexandra Cheney

ゴールデン・ドア

カリフォルニア州サンマルコスの一角にあるきらびやかな金色の扉を抜けると、木の渡り廊下に意図的に付けられた曲がり角があるのに気付く。「浮世」とは、人生の煩わしさを忘れて、今この瞬間を生きることをいう。「たった7日間で誰かの人生を変えるにはどうすればいいと思いますか?」と、ゴールデン・ドアの運営責任者Kathy Van Nessは問いかける。「ここでの滞在は、まず深呼吸をしていただき、ご自身の成長を受け入れるために心を柔軟にしていただくことから始まります」。

ゆったりとした広さの客室40室は自分とじっくり向き合えるよう、あえてシンプルな内装の一人部屋となっている。加えて枯山水の日本庭園の眺めは、思考をクリアにするのに役立つ。そして毎日受けられる、ルームサービスのマッサージとフェイシャルトリートメントは、自分へのご褒美だ。明け方のハイキング、午前中のフィットネストレーニング(パーソナルトレーナー付きの個人レッスン、またはクラス)、午後の各種トリートメント、夕方の休息と瞑想、星空の下で他の参加者といただく夕食――そんな日課に体が慣れるにつれ、心も体も癒され、活力を取り戻していく。

この他、心身のバランスを整えるのに役立つオプションメニューは、フェルデンクライスメソッドのエクササイズ(インストラクターのTraceyを指名しよう)、水中指圧「Watsu」、鍼治療、カッピング(セラピストのJillを予約しよう)など。部屋で取る朝食には俳句が添えられ、ここで過ごす時間の意味をあらためて意識させてくれる。スタッフと宿泊客の人数比が4対1というこの施設では、細部まで行き届いた配慮が見てとれる。

また、ほとんど週を男女別の宿泊にしているのは、宿泊客同士が雑念なく互いに親近感を持ち、成長を促進し合えるからだ。「最高の体験をしていただくことを何より大切にしています」とVan Nessは言う。なお、ゴールデン・ドアでは長年、全収益を児童虐待の根絶に取り組む団体に寄付している。「人生は変えられると私たちは信じているのです。皆さまにとっても、ここに滞在することで大きな変化を体験でき、さらに誰かの人生をも変える力になるなら、これほど素晴らしいことはないと思いませんか」。宿泊パッケージ「陸と水(Land and Water)」は7950ドル~。goldendoor.com —Alexandra Cheney

カル・ア・ヴィ・ヘルス・スパ

カリフォルニア州ビスタにあるカル・ア・ヴィ・ヘルス・スパでは、約200ヘクタールという広大な敷地の中で水車の水音に聞き入ったり、展望エリアでただ一人星を見つめたりと、日常から離脱したような時間が過ごせる。前述のゴールデン・ドアから車でわずか10分ほど。南仏プロヴァンス地方の小村を模して造られたこのウエルネスリゾートには、ヨーロッパから船で運ばれ、復元された400年前のチャペルなど、歴史的建造物や美しい建物が点在している。

そんなプロヴァンス風の魅力的なリゾートで体験できるのは、科学とバイオハッキングを通じた自己発見の旅だ。例えば体重や体脂肪の分析には、高精度の身体組成測定システム「ボッド・ポッド」を使用。認定栄養士を含むトレーニングスタッフがこの「ボッド・ポッド」で測定を行い、利用者に総合的な診断結果を伝えた上で、目標に最短で達するためのパーソナルプログラムを作成する。プログラムに組み込まれるセッションは、50メートルプールでのクライオセラピー(冷却療法)、水中サイクリングや浮き板を使った高強度インターバルトレーニング、メルトメソッドによるストレッチエクササイズなど。

プログラム作成にあたってはまた、専属の自然療法医と2人の栄養士が、病気や痛みの根本原因を診断。ビタミン注射や免疫強化治療など、西洋医学と自然療法を組み合わせたセッションで回復を促す。筋肉のコリが気になる人は、鍼治療や深層組織マッサージ、タイ式マッサージをプログラムに組み込んでもらうと良い。

パーティースペースL’Orangerieまでの急な坂道を上って行くと、遮るもののない景色が目の前に広がり、晴れた日には太平洋の輝く海も一望できる。疲れたら柑橘類の果樹の下で一休みするもよし、手入れの行き届いた芝生での瞑想クラスに参加するもよし。客室はヴィラ25棟とスイートルーム7室。宿泊パッケージは3泊、4泊、7泊から選べる。宿泊パッケージ「プチ・ステイ(Le Petite Stay)」は1人4950ドル~。cal-a-vie.com —Alexandra Cheney

ランチ・マリブ

カリフォルニア州、サンタモニカ山脈の約80ヘクタールの敷地に広がるウエルネスリゾート、ランチ・マリブ。その看板メニューは、広々とした屋外で行う少人数制フィットネストレーニングが中心の宿泊プラン(1週間)で、「持久力」「栄養」「ウエルネス」に焦点を当てている。加えて、人々がコロナ禍で控えていた旅行を再開し始めている昨今、1人または4人までのグループで訪れる旅行者に向けて、6泊7日の宿泊プラン「ランチ・プライベート(Ranch Private)」もリリース。このプランでは、毎日16キロを歩くハイキング、植物由来の食事、マッサージ、ストレッチ/フィットネス/ヨガのクラスなどのメニューを、くつろいだプライベートな空間で体験できる。

創業者兼CEOのAlex Glasscockは言う。「何カ月間も家に閉じこもっていた人々は、そろそろ外で思い切り体を動かしたいと思っています。『ランチ・プライベート』は、お一人、あるいはお友達と一緒に参加する方が気楽だという方や、自分に合わせたカスタムプログラムで目標を達成したいという方にぴったりの宿泊プランです」。

ここで提供されるウエルネスプログラムは、ハードなフィットネストレーニングと栄養価の高い食事で心と体のバランスを整えることが目的で、プールサイドでの昼寝やスパトリートメント三昧といった、ただくつろだけの休暇とは正反対だ。参加者は4時間のハイキングと2回に分けた筋力トレーニングの後、コテージの客室で毎日マッサージを受ける――ただし、深呼吸をして、痛みをこらえる覚悟をしておこう。それに耐えられれば、翌日は元気いっぱいで新しい一日を始められる。家に帰ってからも、ここで身に付けたスキルと規律を生かして、前とは違う生活を送れるはずだ。宿泊プラン「ランチ・プライベート」は1人につき1万1000ドル。theranchmalibu.com —Deborah Frank