バンコクの最新ホテル事情
世界的な高級ホテルが数多く進出している、東南アジア随一の観光都市・バンコク。その数は増加の一途をたどり、今や激戦区となっている。

マンダリン・オリエンタル・バンコク

「ザ・オリエンタル・バンコク」の名で親しまれた往時の来客名簿には、「西洋と輝けるシャム王国の出会い」とでも呼ぶべき、歴史的な名前がずらりと並ぶ。それもそのはず、この来客名簿が書かれた1800年代半ばは世界の指導者がタイと外交関係を樹立し、“母なる大河”チャオプラヤー川の畔に立つ館を来賓客用に利用していた時代だったからだ。この館は英仏の植民地だった東南アジアにおける独立した緩衝地帯の役割を果たし、やがて1876年に正式なホテルとなる。

それから140年余りが経った2019年、今や世界最高級と称されるマンダリン・オリエンタル・バンコクは、オープン以来最も大掛かりな改修工事を完了させた。9000万ドルをかけた大改修の対象となったのは、客室300室、レストラン、ロビー、プールなど。スイートルームを含む客室には、タイシルクの高級ブランドJim Thompsonによる、チャオプラヤー川の流れを思わせる鮮やかなファブリックが配され、シルク張りの壁にはきらびやかな王室御座船のオブジェが飾られている。ジョゼフ・コンラッドの小説にちなんで名付けられたリバーサイドのレストラン、Lord Jim’sは地元の人気店。ここではモダンな趣の店内で、シーフードやプレミアムグレードのステーキをいただこう。バーThe Bamboo Barは、カクテルやジャズが楽しめる夜遊びの定番スポット。今回のお色直しでは、1950年代に使われていた虎縞のモチーフを復活させている。

築100年の木造伝統建築内にあるThe Oriental Spaは、ホテルから川を渡った対岸にある。ここはタイで初めて誕生したホテル併設スパで、タイ式およびアーユルヴェーダのトリートメントを提供する老舗として名高い(ちなみに、タイの素焼きの壺と温めた塩を使って行う「サーマル・ソルト・マッサージ」は、時差ぼけ解消の特効薬だ)。近くにはバンコク最新の高級ショッピングモールIconSiamがあり、その一角に同ホテルの真新しいレジデンス棟がそびえている。582ドル〜。 mandarinoriental.com

ローズウッド・バンコク

バンコクの中心街にそびえ立つ、30階建てのこの新しい矢印形のランドマークに漂うのは、映画『007』シリーズも顔負けの“デカダンスの美学”だ。スカイブリッジ(連絡通路)を渡ればバンコク市内最高級のショッピングモールがあり、9階の突端に作られた海水プールはまさしくボンドの宿敵が住む隠れ家のような雰囲気で、このホテルの世界観をよく表している。高層ビル群のパノラマが見渡せる全158の客室は、上品な大理石とモダンなガラスを調和させたデザイン。スイートルームは20室、さらに「ハウス」と呼ばれる豪華客室も3室もあり、こちらはプライベートプールとテラスを備える。

併設のSense Spaでは、知る人ぞ知るタイ伝統のハーブ療法を試してみよう。また、4つあるレストランとバーの中でのお薦めは、Nan BeiとLennon’sだ。Nan Beiではアールデコ調のゆったりとした店内で、中国北部と南部の郷土フュージョン料理が楽しめる。ディナーの後は最上階にある、6000枚のアルバムコレクションを誇るレコードショップLennon’sへ。ここでは店の奥にある隠れ家的バーで、お気に入りの懐メロを聴きながらその曲をイメージして作られた特製カクテルを味わおう。230ドル〜。 rosewoodhotels.com

カペラ・バンコク

2020年10月にチャオプラヤー川沿いにオープンしたカペラ・バンコクは、101室・棟の客室とスイートルーム、ヴィラ全てが、ウォーターフロントの景色をさえぎるものなく眺望できるようデザインされている。床から天井まで取られた大きな窓もそのためで、客室から外を眺めると川を見下ろしているというより、船に乗って浮かんでいるような感覚を覚える(加えて、バスルームからの眺めも素晴らしい)。なお、川に面した7つのヴィラは全て、川岸にジャグジー付きのプールを備えている。

併設スパAuriga Wellnessでは、木槌を使ったタイ古来のマッサージ「トク・セン」を試してみよう。または、コンシェルジュサービス「カペラ・カルチュアリスト」に依頼し、地元ガイドが案内するバンコクのディープスポット巡りに出掛けるのもいい。ホテルが位置するのはチャオプラヤー川とジャルンクルン通り(市内最古の舗装道路)が交わる一等地で、界隈には最先端のカフェやバー、アートギャラリー、そして昔ながらのストリートフードや工芸品の店が、ごった煮のように軒を連ねている。

滞在中は少なくとも一度はホテル内のレストランを訪れ、世界トップクラスのシェフが腕を振るうディナーに舌鼓を打ちたい。2019年版『世界のレストランベスト50』で1位に輝いた、フランスのミシュラン三つ星レストランMirazurのシェフMauro Colagrecoが率いるCôte by Mauro Colagrecoでいただけるのは、モダンフレンチとイタリア南部のリグーリア料理を融合させた創作料理だ。家庭的なタイ料理を屋外で味わいたいなら、川に面したPhra Nakhonがお薦め。日曜の午後は、甘いペイストリーとカクテルをお供に、古き良きタイの魅力が詰まったバーStellaでくつろごう。580ドル〜。 capellahotels.com

フォーシーズンズホテル・バンコク・アット・チャオプラヤーリバー

チャオプラヤー川沿いに立つ階段状の外観が印象的なこのホテルは、雑多なクリエーティブ地区でもひと際洗練された水辺の聖域として、昨年12月にオープンした。設計事務所DennistonのJean-Michel Gathyが手掛けた299の客室は、窓の外に広がる銀色の川や都市景観とのつながりを感じさせる、ミニマルかつ統一感のある内装。また、プールと噴水による階段状の水景が屋内から屋外へ抜けるパブリックスペースでは、どこからでも美しいパノラマビューが楽しめる。スイートルーム「Terrace Suite」は、ディナーパーティーが開けるほどの広さ。10階にある3ベッドルームの「Presidential Suite」は、川の景色がドラマチックに広がる2階分の高さの窓、特大テラス、プールを備えており、「バンコクのベストリモートオフィス」という称号を遠からず勝ち取れそうだ。

併設のレストランやバーもスターぞろいだ。洗練された空間で本格広東料理を味わえるメインダイニングのYu Ting Yuanには、ぜひとも事前に予約を入れておきたい。川沿いのBrasserie Palmierは、バンコクで最も古い魚市場の一つに隣接し、週末の朝はコーヒーとクロワッサンを、夕方にはシーフードの盛り合わせを求める若者でにぎわう。BKK Social Clubは世界を飛び回るジェット族御用達のバー。ここはブエノスアイレスの麗しき黄金時代のナイトライフを再現した大人の社交場で、併設する中庭2つのうち一つが葉巻用、もう一つがタイ随一のミクソロジストによる特製ボトル入りカクテルを楽しむスペースとなっている。

心と体のチューンアップが必要なら、利用すべき施設はThe Urban Wellness Center――日々ストレスと闘う現代人のためにホテルが準備を進めている、本格的なトレーニングセンターだ。このセンターは今年中に完成の見込みで、2フロアがスパとフィットネス、1フロアが瞑想などスピリチュアルワークのためのスペースとなる。最先端のフィットネス設備や施設の目玉となる長さ30メートルの競泳プールは、体調管理の頼もしい味方となるだろう(当面は宿泊客のみ利用可能)。この他、366戸の73階建てレジデンスタワーも年内にオープンする予定。335ドル〜。 fourseasons.com —Serena French